どうして 離れてしまったのだろう 時を戻せたら
先に離れたのは 俺なのか 彼女なのか
憂 肆
雪解けとともに この世には誕生の季節がやってきた
雪の下で耐え抜き、ようやく生まれ出た花たちが一斉に咲き乱れ 我こそがと
人々に 語りかける
しかし、俺の一番近くで語りかける 花 の内なる想いに気付けなかった 俺は・・・
先日 京都の元気娘 操から一通の手紙が送られてきた
文面によると 葵屋がことのほか流行り、増改築したから 遊びに来いとのこと。
中にはちゃんと 二人ぶんの船の切符も入っており、有無を言わず来いと・・・。
昨年の暮から 薫の体調が思わしくないので 最初は断ろうとしたが、
『操ちゃんのせっかくの誘いだし、この切符を無駄にするのも悪いわ』
という薫の抗議により、京都行きが決定した。
今思えば あれは彼女の最後の思い出作りだったのだ
「緋村〜! 薫さ〜ん!」
遠目でやっと分かるぐらいにも関わらず、元気娘はこれでもかというほど 手を
ブンブン振って走ってくる
「久しぶりね 操ちゃん」
「来てくれて 嬉し〜 ・・て あれ?薫さん なんか顔色悪くない?」
「 ちょっと 船酔いしちゃった 」
葵屋につくと、二人で一間をあてがわれ 薫は体調不良のため 夕餉まで休ませることにした。
「久しいな」
この料亭の主である 寡黙な男がやってきた
「ああ しばらく世話になるでござる」
「神谷の娘は 休んでいるのか?」
「昨年の暮から体調が思わしくなくて・・。 今回も止めたのでござるが どうしてもときかなくてな」
「操が強引に 誘ったからだろう。 すまなかった」
「いや 薫殿も楽しみにしていたようだし、 旅行することにより 気分も高揚するかもしれない 病は 気からというでござるから」
「 墓参りには 行くのか? 」
「 ああ でも今回は一人で行こうと思う。 薫殿は優しい 拙者が言ったら
きっと付いてきてくれる しかし今はこれ以上、負担をかけたくないでござるから。」
「そうか」
夕餉の宴が始まった 薫も休んで少しばかり顔色も良くなったように思われる
そのまま 宴会は深夜まで続き、二人がようやく開放されたのは丑の刻ぐらいのこと
「ふ〜 疲れちゃったわね! 」
「そうでござるな 明日の朝はゆっくり休むといい 」
「 明日 の予定は・・? 」
「・・・師匠の所に行こうと思っているでござるよ 」
「比古さんのところに・・?」
「 ああ。 春とはいえ、山は寒い 薫殿はここで待ってるでござるよ。 もしかすると泊まりになるやもしれん。」
「 うん・・。」
薫の顔を伺う 嘘はばれていないだろうか
否、もちろん師匠の所に行くのは嘘ではない しかし 剣心にはもう一つ行き先があった 前妻 巴のところに
普段であれば 薫を連れ立って行くのだが、今回は薫の体調を気遣って あえて 黙っていた
「 行ってくるでござる 」
「・・うん いってらっしゃい 」
近から比古にと酒を渡され、剣心は少し空気が温まってきたころに出かけた。
『これからだと、ほんとに泊まりになるかもな』
巴が眠る墓に参り、しばらく 今は亡き彼女に語りかけていた
かつては 己の中に出てきた彼女だが、あの微笑み以降 一切現れなくなった。
彼女もようやくかつての婚約者のもとに 逝けたのかと 心の底から安堵する
それから、住職につかまり 昔のことをあれこれ話している内に すっかり遅くなってしまった。
いつかは と思っていたが、師匠の元へは今日が絶対ではない。
しかし、近から渡された酒をそのまま持ち帰ったら 皆が変に思うに違いない。
泊まるかもしれないという旨を伝えてきたのだから、心配はしないだろう。
師匠の山小屋に着いたのは、日もどっぷり暮れ 春とはいってもまだまだ寒さを
感じる刻だった。
「師匠? お邪魔するでござる」
中に入ると 思いもかけない人物がいた
「!!お近殿!?」
「緋村さん!! いったい今まで 何してたんですか!?」
「この馬鹿弟子 !何処で油売ってたんだ!!」
「いったい どういう事でござるか?」
「薫さんが倒れたのよ!! だから一刻も早く緋村さんを 呼び戻そうとしたのに
来てみたら いないっていうじゃない」
「 薫殿が!? 」
ヒヤリと変な汗が流れ、全身が震えだす
それからのことは あまり覚えていない ただただ薫の無事を祈り
一刻も早く 薫のもとへ という気持ちで神速で山を駆け下りた
★ いよいよ佳境にさしかかってきました。
かなり二人を苦しめてますね(鬼だ)本来なら、結核にかかったら
なるべく、周りとの接触は避けた方が良いのですが、今回はムシ!!
だって話が成立しなくなるしね(汗)